東京高等裁判所 昭和34年(く)34号 決定 1959年6月10日
少年 F(昭一五・一・八生)
主文
本件抗告を棄却する。
理由
本件抗告の理由は、抗告申立人たる少年名義の昭和三十四年三月三十日附抗告申立書に記載してあるとおりであるから、ここにこれを引用する。
本件少年保護事件記録及び少年調査記録によれば、原裁判所は、昭和三十四年三月三十日の審判期日に先立ち、同月十八日少年の保護者である父Aに対し、右審判期日に審判場所である静岡少年鑑別所に出頭すべき旨の呼出状を発していること、右保護者は、同月二十三日静岡家庭裁判所浜松支部に出頭して、調査官に対して、同人の家庭の状況、少年の性行、将来の処遇等につき詳細な意見を陳述し、少年は私一人の手には負えない、面倒は見かねる、長男も引取るとはいわない、審判期日に出頭することは自信がない、家で兄弟と相談し、その上で決めるとの趣旨を述べておること、同月二十八日右保護者から原裁判所に対し、都合により参上いたし兼ねるから前以て御断り申上げますとの書面があつたこと、よつて原裁判所は、前記審判期日には、右保護者の立会なくして審判をなし、少年のみの陳述をきいて、原決定を言い渡したことが認められる。以上の事実に徴すれば、原裁判所は、三月十八日少年の保護者に対し、審判期日の呼出状を適式に発送していること(尚三月二十三日附A名義の期日請書も記録に編綴されている。)が明らかであり、かつ前記の如く保護者の意見も十分聴取しているものと認められるから、原裁判所が保護者の立会なくしてなした審判手続に瑕疵があるものとすることはできない。
所論は、実父Aとは生後間もなく生別し、母、兄の力で養育されたのであるから、実父は事実上の保護者ではない。実兄Bが事実上の保護者として面倒を見てくれていたから、実父の立会はともかくとして兄Bが立ち会わずしてなした原決定は違法であると主張するが、少年の保護者は父Aであつて、兄Bでないことは勿論、記録によれば、少年は兄C、B方等に居住していたこともあるが、土工をして所々を転々としておつたこと、只B方に比較的長く同居していたことが認められ、又審判期日には、少年自ら月二度位は父の許に帰り、帰れば父も心配はしてくれた旨陳述しているところに徴すると、兄B方に比較的長く同居していたというだけで、果して同人が事実上の保護者としてどの程度少年を指導、監督していたかも明瞭でないから、原裁判所が参考人として同人の陳述をきくのは、或は親切な措置であるということはできても、所論の如く同人の立会がなくして審判したのは手続に違反するものであるとはいうことができない。その他記録に徴するも、原裁判所の審判手続には何らの違法はない。
しかして記録に見られる本件事件の動機、態様、少年の素行、友人関係、家庭の環境、殊に前記の如き保護者の保護能力の欠缺等諸般の情状を考えると、少年を指導、監督するに十分でない家庭におくより、一定期間収容施設に収容して規律ある生活をなさしめ、その性格的欠陥を矯正させる必要があるものと認められるから、原決定が少年を特別少年院に送致する旨の決定をなしたのは相当である。以上の理由により本件抗告はその理由がないから、少年法第三十三条第一項により、主文のとおり決定する。
(裁判長判事 三宅富士郎 判事 井波七郎 判事 荒川省三)